慶應義塾大学にはじめてのトライアスロン部としてTeam J.が誕生したのは、1989年の秋であった。あれから、すでに年の月日が経とうとしている。今でこそ、多くの大学にトライアスロン部があるが、当時トライアスロン部のある大学は珍しく、全国的に進みつつあった学生トライアスロン界の組織化の先駆けたらんとTeam J.も創設された。
創設当時のTeam J.とは、その名前に秘められた創設の理念にあるといって過言でない。Team J.のJは一体何をあらわすのか。多くの人が“JOY & JAPAN”と答えられるかもしれない。しかし、“JOY”なり“JAPAN”が創設当時どういう意味を持ったのかを正確に答えられる人は少ないかもしれない。創設当時の塾は、個人またはグループでトライアスロンを行っている者はいたが、塾全体としてはバラバラの状況であった。また、トライアスロンを行う目的も、競技としてショート中心に行う者もいれば、トライアスロンのそもそもの発祥であるロングに挑戦するという者もあった。
こうしたなかで、塾内トライアスリートの統一化を図り、第一回の学生選手権に出場を果たすという夢を実現するには、何故トライアスロンを行うかという問いに対する統一的なコンセプトが必要であった。それが創設の理念たる“JOY & JAPAN”なのである。つまり、それは競技においても、挑戦においても、Jを追求するということのもとにひとつに昇華するというものである。
Jを追求するとは何か。それはJの持つ二つの意味を追求することに他ならない。二つの意味とは、“JAPAN”の「肉体的にも精神的にも真の“日本一”を目指す」ということであり、“JOY”の「人間が自身に打ち克つ“歓喜”」ということである。
まず“JAPAN”は、もちろん、個人や団体で日本一になることがあげられる。さらに、そこにとどまらず、学生トライアスロン界の王者として広く学生トライアスロン界に貢献していくことが肝要である。単に競技で日本一になるだけでなく、他大学からJこそがその精神性や学生トライアスロン界への貢献も含めて、真の日本一であると言われるような存在を目指すべきである。
次に“JOY”であるが、ここに隠された意味は難しい。この“JOY”は、実際はロマン・ロランの『ジャン・クリストフ』をバックにしているのだが、Jの存在の多義性を象徴するものといえる。自分自身に挑戦して不可能と思っていたことを成し遂げた時に得られるものであってもよいし、仲間を大事にして仲間とともに分けち合う喜びでもよい。また純粋に自身の楽しみでもよい。さらに、Jの気風と伝統からいえば、“人を大事にして人を育てる”ことによってえられる喜びともいえる。
以上がJの創設当時の理念であるが、その理念はその後の歴史のなかで、それぞれの代のJへの深遠な想いのなかで熟成されて、現在のJが築かれたのである。そのJの歴史に新しい1ページを刻むのは、まさにこれからJを追求しようとするみなさんである。ひとり一人のJに対する熱い想いこそがJにとって最も大切なものであるといえる。
